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東京地方裁判所 昭和62年(ワ)4154号 判決 1987年11月24日

原告

丸山キイ子

右訴訟代理人弁護士

岡村親宜

被告

西浦啓之

被告

西浦芙美江

被告

西浦不動産株式会社

右代表者代表取締役

西浦啓之

右三名訴訟代理人弁護士

久保恭孝

鈴木国夫

被告

三井不動産株式会社

右代表者代表取締役

江戸英雄

右訴訟代理人弁護士

渡辺昭

片柳昂二

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告西浦芙美江は亡西浦増太郎の相続人たる地位を有しないことを確認する。

2  原告と被告西浦啓之及び三井不動産株式会社との間において、別紙物件目録記載(一)(二)の土地(以下「本件不動産」(一)(二)という。)について、原告が被告三井不動産株式会社に対する借地権につき持分六分の一の権利を有することを確認する。

3  被告西浦啓之及び被告三井不動産株式会社は、本件土地(二)につき、東京法務局昭和六一年二月二〇日受付第二一三三号による昭和六〇年一〇月二〇日相続を原因とする被告西浦啓之に対する賃借権移転登記を、同一相続を原因とする西浦千代の持分二分の一、原告、被告西浦啓之及び宮田孝子の持分各六分の一の割合による賃借権移転登記に更正登記手続をせよ。

4  被告西浦不動産株式会社は、本件土地(四)につき東京法務局昭和四一年六月二日受付第九四八三号による昭和四一年五月三一日売買予約を原因とする被告西浦不動産株式会社に対する所有権移転登記請求権仮登記を抹消し、昭和四二年五月二二日受付第九四四八号による昭和四一年九月三〇日売買を原因とする被告西浦不動産株式会社に対する所有権移転登記を、昭和六〇年一〇月二〇日相続を原因とする西浦千代の持分二分の一、原告、被告西浦啓之及び宮田孝子の持分各六分の一の割合による所有権移転登記に更正登記手続をせよ。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  亡西浦増太郎は、昭和六〇年一〇月二〇日死亡したが、同人の相続人は、配偶者西浦千代、長男被告西浦啓之、長女宮田孝子及び二女原告の四名であり、その相続分は西浦千代が二分の一、その余の三人の相続人は各六分の一である。

被告西浦芙美江は、亡増太郎の死亡直前の昭和六〇年四月一二日同人との養子縁組届により、戸籍上同人の養子となつているが、当時同人は重い脳疾患で行為能力がなく、何者かによつて縁組届に署名がなされているから、養子縁組は無効であり、被告西浦芙美江は亡増太郎の相続人ではない。

2  亡増太郎は、本件不動産(一)(二)の土地につき借地権を有し(本件不動産(二)の土地に昭和五七年一一月一四日設定の賃借権設定登記がなされている)、本件不動産(三)の建物を所有して酒類販売業を営み、本件不動産(四)の土地を所有していた。

3  被告西浦啓之は、本件(一)(二)の土地の借地権につき、亡増太郎の東京法務局所属公証人佐藤忠雄作成にかかる遺言公正証書により、「長男西浦啓之に相続させる」旨の遺言によりこれを取得したとして、本件不動産(二)につき東京法務局昭和六一年二月二〇日受付第二一三三号による賃借権移転登記を了した。

4  しかし、右遺言の趣旨は、相続分の指定を伴う遺産分割方法を定めたもので、遺贈の意思表示ではないから、遺産分割協議の成立又は審判までの間は遺産共有である。

5  本件不動産(四)の土地は、被告西浦不動産株式会社のために、東京法務局昭和四一年六月二日受付第九四八三号による昭和四一年五月三一日売買予約を原因とする所有権移転登記請求権仮登記及び昭和四二年五月二二日受付第九四四八号による昭和四一年九月三〇日売買を原因とする所有権移転登記がなされている。しかし、登記原因たる事実は存在しないから、亡増太郎の所有していたものである。

よつて、原告は請求の趣旨記載の判決を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1のうち、亡増太郎が昭和六〇年一〇月二〇日死亡したこと、被告西浦芙美江が昭和六〇年四月一二日養子縁組の届出をしていることは認めるが、その余は争う。

2  同2のうち亡増太郎が本件不動産(一)(二)の土地につき借地権を有し、本件(二)の土地につき昭和五七年一一月一四日設定の賃借権設定登記を経由していたこと、本件不動産(三)の建物、同(四)の土地を所有していたことは認めるが、その余は争う。

3  同3の事実は認める。

4  同4は争う。

5  同5のうち本件不動産(四)の土地につき主張の仮登記及び登記があることは認めるが、その余は争う。

三  被告西浦啓之、西浦芙美江の主張

1  亡増太郎及び西浦千代と被告西浦芙美江間になされた養子縁組は有効である。

2  本件不動産(四)の土地は登記原因のとおり実体上被告西浦不動産株式会社に売買されたものであり、亡増太郎の相続財産には属しない。

第三  証拠<省略>

理由

一亡西浦増太郎が昭和六〇年一〇月二〇日死亡したこと、同人及び西浦千代と被告西浦芙美江との間に昭和六〇年四月一二日養子縁組の届出がなされていることは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば亡西浦増太郎は被告西浦芙美江を養子にする意思で養子縁組届書に署名押印し(西浦千代が署名を手助けした)届出たこと、西浦増太郎の相続人は配偶者西浦千代、長男被告西浦啓之、長女宮田孝子、二女原告、養女被告西浦芙美江であることが認められる。<証拠>によれば西浦増太郎は昭和五九年一二月より距離感が分らなくなりポータブルの前後に失禁、易怒、拒薬、食欲不振で昭和六〇年六月一一日永生病院に入院したこと、入院当時脳動脈硬化性痴呆で両眼失明に近い状態であつたことが認められるが、<証拠>によれば養子縁組時に意識はしつかりしていたことが認められるから、前記認定事実を動かすに足りない。以上認定の事実によれば西浦増太郎及び千代と被告西浦芙美江の養子縁組は有効であるといわなければならない。

二西浦増太郎が本件不動産(一)(二)の土地につき借地権を有し、本件(二)の土地につき昭和五七年一一月一四日設定の賃借権設定登記を経由していたこと、本件(三)の建物を所有していたこと、請求原因3の事実、西浦増太郎が本件不動産(四)の土地を所有していたが、被告西浦不動産株式会社のために東京法務局昭和四一年六月二日受付第九四八三号による昭和四一年五月三一日売買予約を原因とする所有権移転登記請求権仮登記及び昭和四二年五月二二日受付第九四四八号による昭和四一年九月三〇日売買を原因とする所有権移転登記があることはいずれも当事者間に争いがなく、被告西浦啓之本人尋問の結果によれば右登記のとおり売買がなされ、被告西浦不動産株式会社が本件不動産(四)の土地につき所有権を有することが認められ、他にこれに反する証拠はない。

原告は「長男西浦啓之に相続させる」旨の遺言の趣旨は、相続分の指定を伴う遺産分割方法を定めたもので遺贈の意思表示ではないと主張し、これに副う裁判例が存することも事実である。しかしながら、本件においては<証拠>によれば西浦増太郎から長男西浦啓之に本件借地権を遺産分割協議の手続を経ることなく確定的に取得するための遺言の依頼を受けた弁護士がその旨を公証人に伝え遺言公正証書を作成したこと、公証人は「相続させる」旨の表現をとつた方が登録免許税が遺贈の場合の四分の一ですむこと、借地の場合には賃借人の承諾を要しないこと、単独で移転登記できる利便があり、法的効果には変りがないことを伝え本件公正証書遺言がなされたことが認められ、登記先例はこのような取扱いをしていること(昭和四七年四月一七日法務省民事局長通達・民事月報二七巻五号一六五頁)、遺言の解釈は民法という実体法規範が基準であり、わが民法はフランス民法にならい相続人に対する場合でも遺贈を原則として規定し、相続分の指定と遺産分割方法の指定には一か条しか用意せず九〇三条ではもとより遺留分減殺の対象を定めた一〇三一条でも触れていない脇役であることを考慮すれば、「相続させる」旨の表現であつても原則として遺贈であると解するのが相当である。したがつて、原告の主張は採用できない。

三以上によれば、原告の本訴請求はすべて理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官村重慶一)

別紙物件目録

(一) 東京都中央区日本橋室町四丁目五番一〇

宅地 395.65平方メートルのうち196.29平方メートル

(二) 同所同番四四

宅地 30.76平方メートル

(三) 同所五番地一〇

家屋番号一五番

木造亜鉛メッキ鋼板瓦交葺二階建店舗

一階 127.80平方メートル

二階 79.86平方メートル

附属建物

木造亜鉛メッキ鋼板葺二階建倉庫

一階 24.79平方メートル

二階 24.79平方メートル

(四) 東京都中央区日本橋本石町四丁目四番一五

宅地 113.58平方メートル

以上

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